社長ブログ

「解ってもらいたいのに、なんで解ってもらえないんだ???」その苦悩から起こるのがハラスメントです

「なんで伝わらないんだろう……。」
そんな小さな違和感から、職場の空気が急に重くなる瞬間があります。
指導する側には悪気はなく、むしろ“良かれ”と思って言った言葉。それなのに、相手は深く傷つき、周囲は気まずい沈黙に包まれる。
気づけば、誰も口に出さないまま、関係性の溝だけが広がっていく——。

これは特別なケースではありません。
むしろ、これはどの企業にでも生じうる“ハラスメントの手前のサインです。
そしてこのサインを見過ごしてしまうと、問題は静かに深刻化し、ある日突然、経営者のもとに「相談」が持ち込まれます。
「もっと早く気付いていれば……」多くの経営層がそう語ります。
その一方で、被害を訴えた側もまた、「こっちの言うことを全く聞こうとしないんです」と口にしたりします。
つまりハラスメントは、加害・被害という単純な構図ではなく、
“解ってほしい”と“解ってもらえない”のすれ違いから始まる、コミュニケーションの問題なのです。

本記事では、そのすれ違いがなぜ起こるのか、そしてどうすれば防げるのかを、現場で多くの相談に向き合ってきた当社の経験をもとにお伝えいたします。


コロナ禍以降、働く価値観は大きく変化いたしました。若手社員は会社にいることでの仲間意識などにはあまり価値を感じず、仕事自体に意義を見出して、自身で納得・理解をして自らの判断で行動しなければならないということに必然性を感じるようになってきました。
これは若手世代の性格的な変化ではなく、社会環境の変化により形成された価値観とも言えます。
そのため管理職が従来型の「仕事はやって覚える」「分からないところは教えてあげる」という基準で指導をすると、若手はその指導方法に不安や不満を抱くことになります。
そして、その不安や不満が積み重なると、次第に拒絶反応を引き起こすこととなり、上司との間に溝ができることとなり、結果として指導の一部を攻撃的と感じてしまうような状態になってきます。

とは言え、現状人手不足と言われている中小企業においては、管理職が「自分のペースではなくもっと効率的にやらないと」とか「いろいろ考えるよりもまずはやってみて」といった従来型指導をせざるを得ない状況でしょう。
結果として、若手は背景がわからないまま行動することを強い不安として受け取り拒絶反応 → 萎縮 → 誤解 → ハラスメント発生という構図に発展するケースが増えているのです。

つまり、そういった若手社員の価値観の変化を理解しないままに従来型の指導を行なってしまうと、関係性を断絶させ、ハラスメントなどのトラブルの発生確率を無意識に高めてしまうことになります。

若手世代は、これまでの対面での議論や師弟的な関係性を通じた学習ではなく、動画やSNSなどの一方向的な学びで育ってきたデジタル世代であることをまず理解する必要があります。
双方向のやり取りに慣れていないため、相手の言葉の意図を深く読み取る経験自体が不足しています。
そのため上司の言っていることの背景や思いを察して欲しいなどといったようなことを望むこと自体に無理があるのです。
また情報や答えが数字や活字で端的で明確に出てくるデジタル情報に慣れた世代にとっては、「曖昧な指示」は大変苦手なものになっています。自分が話したことが半分くらいは伝わっているだろうと思っているととんでもない認識の齟齬が生じます。

結果、管理職は「なぜ伝わらないのか」、若手は「なぜそんな言い方をされるのか」という不満を抱く訳ですが、そこはまず管理職としての認識をアップデートしなければならないところでしょう。

今の若手は生活レベルが満たされて育った“現状満足型”の価値観が主流になりつつあります。
かつてのように「もっと良い人生にするために努力しよう」という貪欲的な自己実現への動機よりも、「無理しない範囲で楽しく暮らせればいい」という姿勢が広く一般化しています。
このギャップに気づかないまま従来型の教え方を続ければ、若手は「過度な要求」や「押しつけ」と受け取り、結果としてハラスメントと判断される可能性が高まってしまいます。

企業の内部で発生するハラスメントの相談を拝見いたしますと、指導する側には悪意がなくて、事業を何とか伸ばしたいとか、部下には成長してもらいたいといった意図を持っている場合が多いものです。にもかかわらず、誤解が生まれやすいのは、自身ではよく分かっていると思い込んでいる部下の考え方や価値観が、実は全く把握ができていないということの現れでもあります。

つまり、ハラスメントというのは表面的に発生した症状であり、問題の本質は「部下との良好な関係性」や「相手のことを知る」という関係構築に必要な認識や行動に対する管理職層の「適応不足」にあると言っても良いでしょう。

また若手社員に会社の理念やビジョンが伝わらないという声を多く耳にしますが、その背景には、理念やビジョンの言語化が企業内で十分に行われていない現実があります。
理念を掲げていても、ただそれを唱和するだけで、上長がそれを日常業務のレベルにまで翻訳しなければ、若手はその意味を理解することができません。

理念を共有するとは、かなり抽象的な言葉を具体的な言葉にまで落とし込む作業になります。
この作業が十分でないと、「何のために働くのか」「この場合どのように判断したら良いのか」といった価値観や判断基準が曖昧になり、指示されることの意味もしっかりと理解ができなくなります。
その結果、こちらは丁寧に伝えているつもりでも、相手にはその仕事の意味するところが全く届いていないことになります。

理念やビジョンを共有するためには、手間のかかることであっても、「本当に理解されているのかどうか?」について、相手の理解プロセスに合わせた、確認と丁寧な対話の繰り返しが不可欠となるのです。

では、このような価値観のずれやすれ違いを前提に、管理職は何をアップデートすべきなのでしょうか。

第一に、指導の前提に「納得」を置くこと が求められます。
若手が納得して動くには、指示の背景、目的、期待する成果を具体的に伝える必要があります。短い説明でよいので、「なぜそれをやるのか」を言語化することが、若手の理解と安心につながります。

第二に、感情ではなく構造で伝える習慣 が重要です。
「頑張れ」「普通こうだろう」といった抽象的表現ではなく、「この作業はこう進めると効率が上がる」「こう対応するとお客様の安心につながる」といった因果関係を伴う説明が求められます。

第三に、若手の価値観を否定しない姿勢 が欠かせません。
「最近の若手は…」といった否定から入ると、若い人たちは心を閉ざします。価値観の違いを理解した上で、「ではどう橋渡しをするか」を考えることが管理職の役割です。

そして、第四にはコミュニケーションの量を意識的に確保すること が必要です。
短時間でもよいので、定期的に対話の時間を設けることで、誤解が積み重なることを防ぎ、信頼関係が構築されていきます。

それでは、これら4つのアップデートについて、さらに詳しくお伝えしましょう。

(1)指導の前提に「納得」を置くこと

若手社員が「まず納得してから動く」傾向は、単なるわがままではなく、社会環境の変化によって生まれた学習プロセスの違いです。そのため管理職が最初に意識すべきは、指示そのものより“指示の背景”を伝えることが先に来るという点です。
たとえば、
「この資料を今日中に作っておいて」という指示は、従来型マネジメントであれば十分に成立していました。
しかし今の若手にとっては、
「何のためにやるのか」
「どのレベルの品質を目指すのか」
「今日中である必要性は何か」
が見えない状態で動くことが、大きな不安につながります。

そこで管理職が意識すべきは、以下のような“目的の可視化”です。
「明日の商談で使う資料だから、今日は最低限この部分だけ仕上げたい。完璧じゃなくていいので、まず叩き台を作ってくれれば助かる」
長い説明は必要ではなく、この程度で十分です。
ただ、“意図”が見えるだけで若手の安心感は大きく変わります。

また、若手は「自分が何を求められているか」を明確に知りたい傾向が強いため、完成イメージや到達点の提示も効果的です。
「この部分だけは数字で根拠を示したい」
「A社向けだからこの表現はやわらかめで」
といった、具体的な期待値を言語化すると、成果物のズレや誤解が大幅に減ることになります。
納得が得られると、若手は自分事として動き出します。逆に、納得が欠落した状態での指導は、感情的なストレスを生みやすく、結果として指導が攻撃と受け取られる危険性があります。
つまり、納得はハラスメント予防の第一歩でもあるのです。

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(2)感情ではなく構造で伝える習慣を持つこと

管理職は「経験則」で語りがちです。しかし若手は暗黙知を言語化されないと理解できません。そこで大切になるのが、“構造で伝える=因果関係を整理して説明する“習慣です。
たとえば、
「もっと丁寧にやれ」、「集中して取り組め」といった指導は、若手には抽象的すぎて行動に落とし込めません。
必要なのは、「何を」「どこまで」「どうすると良くなるのか」を具体化して伝えることです。
例として、
「この作業を最初に整理してから手をつけると二度手間が減って、結果的に今日中に終わる。だからこの順番でやる意味がある」
これが構造的な説明です。

若手は理由が見えると、行動の再現性が高まります。逆に、理由がない叱責や抽象的指導は「ただの感情的な指摘」と受け取られやすく、ハラスメントを生じさせる誤解につながります。

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(3)若手の価値観を否定しない姿勢を持つこと

管理職が最も気をつけるべきは、冒頭で若手の価値観を否定しないことです。
これは、若手への“甘やかし”ではありません。価値観を否定されると、人は本能的に心を閉ざし、防衛反応を起こすためです。

多くの若手が大切にしているのは、「無理しすぎず、今の生活を大切にしたい」、「納得したうえで自分らしく働きたい」といった価値観です。
この価値観は、長時間労働が常態化し、成果主義の波が続いた時代を後ろから見て育った結果でもあります。
つまり若手の価値観は、社会背景が形成した“より合理的な価値観”なのです。
そのことに対して管理職が取るべき姿勢は、
若手を変えていくのではなく、若手の価値観を理解したうえで指導の仕方を変えていくという考え方です。
たとえば、「もっと一所懸命にやれ」と言っても価値観は変わりません。
しかし、「この業務を覚えれば、あなたの負担が減り、仕事の幅も広がる」と伝えると、若手の価値観と管理職の期待値が一致しやすくなります。

このように相手の価値観を理解するだけで、コミュニケーションの摩擦が大幅に減ることになります。
否定ではなく、まず理解を起点にすることが、信頼関係構築の第一歩です。

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(4)コミュニケーションの量を意識的に確保すること

最後に、誤解やすれ違いを防ぐ上で最も重要なのが、「量としてのコミュニケーション」です。
質の高いコミュニケーションを目指す前に、まずは頻度を確保することが不可欠です。
とくに今の若手は、
「急に注意される」
「前触れもなく強い口調で指摘される」
という状況に非常に敏感です。
これは、日常的な対話が不足しているときに起こりやすい現象です。
管理職としては、以下のような短時間の対話を積み重ねることが効果的です。

・1〜2分の声かけ
・小さな進捗確認
・業務の意図を共有するミニミーティング
・雑談レベルのコミュニケーション

これらは時間を奪うものではなく、むしろ日々の仕事の中に自然に組み込めるものです。
こうした小さな対話が積み重なると、若手は安心感を得られ、管理職の意図を読み取れるようになります。

逆に、コミュニケーションが不足した状態では、ちょっとした注意が“攻撃”として受け取られやすく、ハラスメントの誤解が生まれやすくなります。
つまり、コミュニケーションの量はマネジメントの基盤であり、ハラスメント予防の最大の土台です。

ハラスメントの多くは、特定の誰かの悪意によって生じているわけではありません。むしろ、管理職と若手の双方が「誤解されたくない」「理解されたい」と願う中で、その思いがすれ違い、徐々に傷つき合ってしまう結果として起こっているケースが大半です。

社会環境が急速に変化し、働く価値観も多様化した今、従来の指導方法では若手の理解や納得を得ることは難しくなりました。
だからこそ管理職には、指導の目的や背景を丁寧に伝え、感情ではなく構造で説明し、若手の価値観を尊重したコミュニケーションを実践することが求められています。
そして、その土台となるのは管理職の意識のアップデートと日々の対話の積み重ねです。
異なる価値観を認識した上で、短い時間であっても、頻度高くコミュニケーションを交わすことで、誤解は減っていき、信頼関係が育まれていきます。

私たちは、価値観の違いを前提としたコミュニケーションが、組織を安定させ、人の成長を促し、最終的には企業の持続的な発展につながることを確信しています。
「解ってもらえない」という苦悩は、管理職にとって簡単に解決できるものではありませんが、視点を少し変え、伝え方をアップデートするだけで、その苦悩は確かな成長と成果へと変えることができます。

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