社長ブログ

10月1日施行のカスハラ対策義務化について

現在、顧客第一主義を大切にしてきた企業ほど「お客様からの厳しい声」と「現場社員の保護」の板挟みになるという現象が発生しています。過剰な要求に対処できず、現場の管理職が対応に追われ、本来の業務が圧迫されているケースが増加しているのです。結果、生産性が下がり、社員のモチベーション低下にもつながっています。

そうした中、本年10月1日よりカスハラ対策の防止措置が企業に義務付けられます。これは単なるルールの導入にとどまらず、「頑張る社員と会社を守るための強力な盾」を作る絶好の機会と捉えることが重要です。

今回は、当社の豊富な企業支援ノウハウをもとに、中小企業が今すぐ取り組むべき実務的なロードマップを多角的な視点からまとめました。社員が安心して働ける環境づくりの一助となれば幸いです。


近年、顧客や取引先からの過剰な要求や理不尽な暴言、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題化しています。以前から「お客様は神様だ」という考え方が強く残っていた日本社会ですが、過度なストレス社会やSNSの普及などを背景に、要求が過激化・悪質化する傾向が強まっています。

具体的には、以下のような事例が多くの企業で報告されています。

  • 過剰な金銭・謝罪要求:「責任者を呼べ!」「土下座して謝れ!」「精神的苦痛を受けたから〇〇万円払え!」と何時間も居座り電話を切らない。
  • 人格否定・暴言:「バカ」「能なし」「給料泥棒」など、業務上のミスや不手際の指摘を超えた個人の人格を否定するような言葉を浴びせる。
  • SNSでの晒しや脅迫行為:「お前の対応を動画で撮影したからネットで炎上させてやる」「SNSの口コミに悪評を書き込んでやる」といった脅し。
  • 不当な長時間の拘束:店舗や電話窓口で、納得がいかないと主張し数時間にわたり業務を妨害、停止させる。

これらの行為は、単なる「クレーム(改善を求める意見)」の域を大きく超えています。現場の従業員は心理的に強いダメージを受け、休職や離職に追い込まれるケースが後を絶ちません。

特に採用活動さえ難しい中小企業にとっては、貴重な人材の離職は事業継続をも揺るがす重大な損失となりますので、カスハラはもはや現場任せにしておけない問題となっており、経営課題としてしっかりと捉えることが必要です。


2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止法等の改正)では、これまで努力義務にとどまっていた、または明確な規定が乏しかった「顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)」に対する防止措置が企業に義務付けられます。
これにより、すべての事業主(中小企業含む)は、カスハラから従業員を守るための体制を整備することが法律上求められることになります。

法的に求められる防止措置の主な柱は以下の通りです。

  1. 事業主の方針の明確化と周知・啓発:カスハラに対する企業としての方針(許容しない姿勢)を定め、全社に周知すること。
  2. 相談体制の整備:従業員が被害に遭った際に、安心して相談できる窓口を設置し、適切に対応すること。
  3. 被害発生時の迅速・適切な対応:相談を受けた際、事実確認を迅速に行い、被害を受けた従業員への配慮・ケア(メンタルヘルス対策等)を実施すること。
  4. 再発防止策・事前の予防措置:マニュアルの整備や研修の実施、悪質なケースにおける法的措置も含めた対応スキームの構築。
  5. プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止:相談した従業員が社内で不利益を被らないよう配慮すること。

つまり、「何かあったら現場で何とかしてくれ」という対応は今後、企業側の「安全配慮義務違反」とみなされるリスクが生じることになり得ます。


カスハラ対策を進める上で、多くの経営者や総務人事担当者が頭を抱えるのが「正当なクレームと悪質なカスハラの線引き」です。
企業が提供した商品やサービスに欠陥があった場合、顧客が不満を表明すること自体は正当な権利です。これらをすべて「カスハラだ」と突っぱねてしまうと、企業の改善の機会を失い、顧客離れを引き起こします。

境界線を見極めるポイントは、「要求内容の正当性」「手段・態度の相当性(妥当性)」の2軸で判断することです。

区分要求内容の正当性手段・態度の相当性判断
正当なクレームあり(商品不備等)あり(社会通念上妥当)誠意を持って謝罪・対応
過剰なクレームあり(商品不備等)なし(暴言・長時間の拘束等)カスハラとして対処
不当な要求なし(言いがかり)あり/なしカスハラとして対処

例えば、自社に落ち度があったとしても、「10分以上怒鳴り続ける」「土下座を強要する」「業務時間外に自宅へ謝罪に来いと要求する」といった行為は、手段の相当性を欠いているため「カスハラ」に該当します。

つまり、自社の「カスハラ判断基準」を明確にし、現場の社員が迷わず判断できるように可視化しておくことが必要になるのです。


10月1日の施行に向けて、中小企業が準備すべき具体的なアクションを5つのステップで解説します。

ステップ1:現状の把握と実態調査
まずは社内で過去にどのようなクレームやトラブルがあったか、現場がどのような対応に困っているかをヒアリング(アンケートや面談)で把握します。

ステップ2:カスハラ基本方針の策定と宣言
経営トップから「当社は社員を不当な嫌がらせから守る」「悪質なカスハラには毅然とした対応をとる」という基本方針を打ち出し、社内への周知だけでなく、Webサイトや店舗等でも社外に対して宣言します。

ステップ3:対応マニュアルの作成とルール化
「どのような行為がカスハラにあたるか」「カスハラが発生した際、現場はどう一次対応し、誰に報告すべきか」等を定めたマニュアルを作成します。
その際には「複数名で対応する」「通話を録音する」「一定時間(〇〇分)を超えたら打ち切る」といった具体的な行動基準が必要です。

ステップ4:相談窓口の設置と運用の周知
人事部や総務部に相談窓口を設置します。なお中小企業で社内に適切な窓口を置くことが難しい場合や、担当者の負担が大きい場合は、外部の専門機関や顧問弁護士、社外相談窓口を活用するのも有効な手段です。

ステップ5:従業員への研修・ロールプレイングの実施
マニュアルを作っただけでは現場は動くことができません。
現場リーダーや営業担当、店長など、カスタマーサポート部門を中心に、具体的な事例を用いたロールプレイングや対応研修を実施し、チームで対応できる組織力を育てます。


カスハラ対策を進めるにあたり、注意すべきポイントがいくつか存在します。
対応を一歩間違えると、二次被害を引き起こしたり、本来大切にすべき良質な顧客まで失ってしまう恐れがあります。

1. 従業員の孤立を防ぎ、心理的安全性・ケアを最優先にする
被害に遭った従業員が「自分がミスをしたからだ」「自分の対応が下手だったから怒らせてしまった」と自分を責めてしまうケースが多く見られます。組織として「あなたが悪いのではない」と明確に伝え、面談による心理的ケアや必要に応じた休養の手配など、迅速な手厚いフォローを行いましょう。

2. 「初期対応」までカスハラ扱いしない
最初から「カスハラかもしれない」と身構えて不誠実な対応をすると、正当なお客様を怒らせてしまい、結果的に問題を深刻化させます。初期対応はあくまで丁寧に、事実確認に徹することが鉄則です。相手の要求が過剰化・悪質化した段階で「組織的対応(複数人での対応、録音、しかるべき部署への引き継ぎ)」に切り替えるメリハリが求められます。

3. 毅然とした態度が、実は「優良な顧客」を守ることにつながる
悪質なカスハラ客に引きずられて長時間の対応を行っていると、他のお客様へのサービス品質が低下します。一握りの悪質な顧客に対して毅然と拒否姿勢を示すことは、決して「顧客離れ」を生むわけではありません。むしろ、健全な顧客体験を守り、自社ブランドの信頼性を高めることにつながります。


カスハラ対策は、法改正に合わせてルールを一朝一夕で作れば終わり、というものではありません。中長期的な視点に立ち、企業の組織文化として根付かせる努力が必要です。

防犯設備・ICTツールの導入
固定電話の全通話自動録音システムの導入、防犯カメラの設置、AIを活用した音声分析ツールの導入など、現場の負担を物理的に軽減する環境整備を進めましょう。「録音しています」というアナウンス自体が強い抑止力になります。

定期的なマニュアルと対応の見直し
社会情勢や自社の事業変化に伴い、新しいタイプのカスハラ(例:SNSやレビューサイトを悪用した攻撃等)が発生します。年に1回程度は対応実績を検証し、マニュアルや運用フローをブラッシュアップしていく仕組みを作りましょう。

企業の「人的危機管理」としての位置付け
カスハラ対策は、パワハラやセクハラと同様に「エンゲージメント(従業員の愛社精神・働きがい)」を高めるための重要な要素です。「この会社は自分たちを守ってくれる」という安心感は、離職率の低下や採用力の向上という大きなメリットをもたらします。


カスハラ対応について、実際の現場では、「これはパワハラなのか、カスハラなのか」「どこまでが正当なクレームで、どこからが過剰要求なのか」「法律的にどのような文言で通知書を出せばよいのか」といった、非常に高度な法的判断と人間関係・心理面の配慮が同時に求められる難問が次々と発生します。

経営者や総務人事の担当者様だけでこれら全てを抱え込むと、本来の業務が停滞するだけでなく、適切な対応がし切れずに、二次トラブルに発展する危険性もあります。

当社では、長年培ってきた「企業の人的危機管理」における豊富な実務経験と法的知見をもとに、以下のような包括的なサポートを行っています。

  • 自社に合わせたカスハラ防止方針・マニュアルの策定支援
  • 現場社員・管理職向けの導入研修・対応ロールプレイングの実施
  • 万一のトラブル発生時における、関係者への面談と客観的ヒアリング
  • 法律的観点を踏まえた実効性のある初期対応アドバイスおよび解決への伴走

従業員が安心して本来の能力を発揮できる職場環境を整えることは、企業の持続的な成長に向けた強力な投資のひとつとなります。10月1日の施行を前に、自社の対策に少しでも不安のある経営者様・総務人事責任者様は、ぜひお気軽に当社までご相談ください。

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