前回ブログではカスタマーハラスメントについてお話ししましたが、
タイムリーな話題ですので、今回もカスハラについて、より具体的にお話しいたしましょう。
はじめに
カスハラ対策の体制整備を進めていく中で、「マニュアルや相談窓口は整ったけれど、実際に現場で悪質なクレームが起きたとき、本当に機能するだろうか?」という不安を抱えてはいませんか?
カスハラ対応で最も避けるべきは、「対峙する個人の社員」に問題を抱え込ませ、現場を孤立させてしまうことです。悪質な要求から社員を守り、会社として毅然とした対応をとるためには、実は制度やマニュアル以上に必須条件となる決定的な要素があります。
本記事では、当社が解決へ導いた2つの具体的事例(医療機関・小売現場)の対応ノウハウをご紹介するとともに、対策の「肝」であるその核心的な必須条件について深掘りいたします。
社内のハラスメント対策や危機管理に携われている人事担当者様や経営者の方は、ぜひご一読ください。
1.まず当方で扱った具体的事例を少し見ていきましょう
【事例1】病院内での大声・威圧クレームへの対応策
この事例は、多くの人が出入りする医療機関(病院)の待合スペースで発生したトラブルです。
ある冬の日、院内は非常に混み合っており、診察スケジュールが予定より大幅に遅れていました。
患者さんたちは寒さや体調不良を抱えながら待っている状態です。
その時、診察着(薄着)に着替えて待機していた一人の男性患者さんが、突然待合スペースで大声を張り上げました。
「順番が来ない!何時間も待たされている、どうなってるんや!」
「こんな寒い恰好でいつまで放置する気だ!」
対応した看護師さんは慌てて「状況を確認します」「もう少しお待ちください」と丁寧に応対しようとしましたが、患者さんの大声と怒りは収まりません。
激しい叱責を前に看護師さんは恐怖で足がすくみ、その場から動けなくなってしまいました。周囲の他の患者さんたちも何事かと狼狽し、待合室全体が緊迫した空気に包まれました。
確かに、病院側に「受診時間が大幅に遅れていた」という落ち度(原因)はありました。しかし、他の患者さんがいる前で過度な暴言が続き、業務を停滞させる行為は著しい迷惑行為(カスハラ)に該当します。
★当社からの具体的アドバイス
■「担当窓口」を一本化し、現場から引き離す
まず、看護師さん一人で対応させず、医事課(事務部門)から担当者を出し、「本件は私が対応いたします」と宣言して窓口を一本化し現場から切り離すようにお願いしました。現場の医療スタッフを暴言から守り、治療業務に戻すことが最優先です。
■解決のタイミングが来るまで「じっくりガス抜き」に徹する
担当者は静かな別室など落ち着ける場所に誘い、まずは相手の言い分をしっかりと聴くことです。ここで「どちらが正しいか」「病院の言い分」を主張しても火に油を注ぐだけですので、解決の方向に導くタイミングが来るまでじっくりとガス抜きをします。
■「怒りのピーク(約20分)」を認識し、冷静に俯瞰する
人間の激しい怒りのエネルギーが継続する時間の目安は「約20分間」と言われています。対応者は相手の感情に引っ張られず、「今は怒りのピーク」であると認識をして、冷静に状況を俯瞰することで次のタイミングが見えてきます。
■落ち着いたタイミングで「謝罪」と「感謝」を伝え着地させる
相手の怒りが落ち着いたタイミングを見計らい、
①待ち時間が大幅に遅れていることへの謝罪
②およその待ち時間の明確な伝達
③「不快な思いをさせてしまったが、貴重なご意見として今後の院内改善に活かします」
という謝意を伝えることで、収束していく。
【事例2】小売店での不当な返金要求と威圧行為への対応策
2つ目は、店舗や窓口を持つあらゆる事業者(小売・サービス業等)で日常的に起こり得る、悪質な不当要求の事例です。
ある小売店の店頭に、見知らぬ男性が訪れ突然大声で騒ぎ始めました。男性は家族の件でと名乗り、購入された商品の不備を理由に、以下の過剰な要求を突きつけてきました。
「 新しい商品と今すぐ交換しろ。それと手違いで迷惑を被ったんだから料金も減額しろ! 」と。
スタッフが顧客情報(契約内容)を確認しようとしたところ、この男性は「契約者の内縁の夫だ」と名乗るのみで、頑なに自身の名前を言おうとしません。
そこでスタッフが個人情報保護および規定に基づき、「誠に恐れ入りますが、ご契約者様ご本人以外との交渉や詳細なお話し合いはいたしかねます」と伝えたところ、男性は激高し、店舗のカウンター越しに身を乗り出し、大声で怒鳴り散らしました。
恐怖のあまり、対応していた若いスタッフは店頭で泣き出してしまい、店舗業務が完全にストップする事態に陥りました。
★当社からの具体的アドバイス
■徹底した本人確認(フルネーム・連絡先の提示要求)
契約者以外の申し出に対し、「確認のため」と明確な理由を告げた上で、相手のフルネーム・住所・連絡先の提示を求めます。名字だけでなく「下の名前(名)」まで聞き取る姿勢を示すことで、相手に「不法行為を行えば身元が特定される」という強いプレッシャーを与えることになります。
■「できないことは、できない」と言い続ける
相手がいくら怒鳴ろうと、自社の規定や法律上不可能な要求に対しては「申し訳ございませんが、それはできかねます」とブレずに伝え続けます。話が平行線になることを前提として腹をくくることが重要です。
■ハラスメントを受けている感情を言葉にして相手に突きつける
相手が暴言を吐いたような場合には、「そのような大声を出されると怖いです」、不当な無理難題に対しては「その要求には困ります」と、恐怖や困惑の感情を明確な言葉にして伝えることで、相手に今ハラスメントをしているという意識を感じてもらう。
■中途半端な妥協(折衷案)は絶対にしない
相手の気迫に押され、「今回だけ特別に〇〇円引きにします」といった中途半端な妥協をしてはいけません。悪質なクレーマーは一度でも「脅せば折れる」と学習すると、要求をエスカレートさせることになります。
■長引く場合は「業務妨害」として退去命令・警察通報を辞さない
対応時間が一定を超え、説得に応じない場合は「他のお客様のご迷惑となり、通常業務に支障が出ますのでお引き取りください」と退去を促します。従わない場合は、毅然として警察へ通報する姿勢が必要です。
2.事例から見えてくる「カスハラ対策の本質的課題」とは?
ここまで2つの事例と当社のアドバイス内容をご紹介しました。
■病院のケース:窓口を切り離し、怒りのピーク(20分)を見極めて落ち着かせる。
■小売店のケース:本人確認を徹底し、中途半端な妥協はしない。
これらは現場で役立つノウハウです。しかし、私たちが数多くの企業の危機管理をサポートする中で確信しているのは、「これらの手法(やり方)を知っているだけでは、実際のカスハラ現場では役に立たない」という現実です。
なぜなら、現場の社員が「何事もつい自分で抱え込んでしまう」「上司に怒られるのが怖くて報告できない」という状態であれば、どんなに素晴らしいアドバイスも、どんなに立派なマニュアルも宝の持ち腐れになってしまうからです。
つまり、制度的な義務化への対応(マニュアル作成や窓口設置)は、あくまでカスハラ対策の「入口」に過ぎません。その奥にある「円滑なコミュニケーションがとれる社風」にすることこそが、カスハラ対策の本質的な課題なのです。
3. カスハラに強い企業を作る「社風」と「情報共有」の仕組み
事例の対応で解説した通り、カスハラが発生した際の鉄則は「対面する個の社員(一人)に対応させず、会社(組織)として対応すること」です。
そして、組織としての対応を可能にするために不可欠なのが、「現場で起きたありのままの状況が、隠されることなく経営者や上長へ素早く上がってくる社風」です。
もし、以下のような社風だった場合、企業はどうなるでしょうか。
●「自分がミスしたから顧客を怒らせたのでは…」と社員が責められる恐怖を感じている。
●「報告したら『お前の対応が悪い』と上司に怒られる」ため、不当な要求を影で勝手に処理しようとする。
●トラブルが発生しても、上司が面倒くさがり対応を後回しにする。
このような環境では、実際の現場で何が起きていたのか(相手の過剰要求なのか、自社の不備なのか)さえ正確な把握ができません。結果として、正しい処置をとることもできず、会社としての効果的なノウハウも蓄積されません。
最悪の場合、追い詰められた優秀な社員がメンタル不調に追い込まれたり、突然離職してしまったりすることもあります。
つまり、双方にどのような問題があったのかを客観的に把握し、社員を守れる会社にするためには、「関係者が上長に包み隠さず本音で話してくれる環境」が必要なのです。
経営者や人事責任者に今問われているのは、マニュアルの文字をこねくり回すことではなく、「風通しの良い職場」「本音で語り合える風土」を本気で作ろうとしているかという姿勢そのものなのです。
4. なぜ日本の職場には「ことなかれ主義」が蔓延してしまうのか?
「風通しの良い社風が大切なのは分かっているが、それができれば苦労はない」とお考えの経営者様も多いのではないでしょうか。
現代の日本企業・組織においては、残念ながら「ことなかれ主義」が根深く蔓延しています。
職場では、以下のような負の連鎖が起きています。
■管理職側:
「厳しく指導したり突っ込んだりすると、部下から『パワハラだ』と騒がれるのが怖い」。
そのため、部下のささいな異変やクレームの兆候に気づいていても放置し、深く関わり合おうとしない。
■部下側:
「上司に相談しても『上手くやっておいて』と関わり合いを避けられるだけだ」「自分を守ってくれない」。そのため、トラブルが限界に達するまで報告しない。
このお互いが関わりを避ける「ことなかれ主義」こそが、カスハラ被害を深刻化させる最大の元凶なのです。 当社がいくら「暴言には毅然と対応しましょう」「複数人で対応しましょう」と専門的なアドバイスを行っても、社内にこの「ことなかれ主義」が残ったままであれば、いざ目の前で不当な要求を突きつけられたときに対策やアドバイスはまったく機能しません。
現実に起きているトラブルを直視し、組織全体で共有・解決していくためには、この「ことなかれ主義」を打破し、信頼に基づいた人間関係を再構築する必要があるのです。
5. 専門家の力を借りて「本質的な組織改革」へ踏み出そう
現場の社員を守り、会社としての危機管理能力を高めるための「良好な関係性の社風づくり」。
これは間違いなく、多くの経営者様が日常的に最も頭を悩ませているテーマのひとつであり、自社内だけの力(経営陣や人事担当者だけの努力)で解決するのは非常に難易度の高い課題です。
社内の利害関係や長年の人間関係が絡み合うため、内部からの働きかけだけではどうしても限界が生じてしまいます。
だからこそ、客観的な第三者の立場であり、企業の「人的危機管理」のプロフェッショナルである当社のような存在に価値があります。
当社が提供する「みおつくし流サポート」
当社は、単なる「マニュアルの作成」や「法律的アドバイス」にとどまりません。
■第三者視点での「客観的なヒアリングや面談」
トラブル発生時、当事者である社員や関係者、上長から丁寧かつ中立的にヒアリングを行い、問題の本質(自社の改善点と相手の不当性の切り分け)を明らかにします。
■心理的安全性を担保する「社外相談窓口」としての存在
社内の人間には言いにくい本音や恐怖心を吸い上げ、組織の健全化に向けたフィードバックを経営陣へ行います。
■「ことなかれ主義」を打破する実践型サポート
管理職と現場社員のコミュニケーションの壁を取り払い、会社全体でハラスメントに立ち向かう「風通しの良い組織風土づくり」をつくるために、研修やワークショップなどのセッションの実施で伴走支援します。
カスハラ対策の義務化は、単なる法対応の負担ではありません。見方を変えれば、自社を風通しの良い社風にし、社員が安心して長く働ける「強い組織」へと生まれ変わるための絶好のチャンスです。
「現場対応のハラスメント対策と社風改善を同時に進めたい」とお考えの経営者様・総務人事責任者様は、ぜひ一度、豊富な経験と知見を持つ当社までご相談ください。
貴社と従業員の皆様にとって、最適なサポートをご提案いたします。